判明!実は踊れる、バッハの舞曲

バッハの舞曲の楽譜を子細に見ると、驚くほど実際のダンスに忠実に書かれていることが分かります。

しかし同時にバッハは、とてつもなく手の込んだ作曲技術、演奏技術を駆使しています。
これを、踊れるように、かつ軽やかに演奏することは極めて難しい。
そういう点がーーバッハの舞曲では踊りにくいーーということにもなってくるのです。

しかしバッハの舞曲の中でも、比較的初期に書かれたイギリス組曲やシャコンヌはダンスと一体の作品ではないのか――?
私は長い間、この疑問を抱き続けていました。

そして試行錯誤を繰り返す内に、私の直感は確信になりました。
さらに、幸いにも、尊敬するバロックダンサー・岩佐樹里さんが私の考えに共感してくださったことで、本プロジェクトの立ち上げまでに至ったのです。

バッハの舞曲を、まとまった形で、本格的なバロックダンスと共に映像化する試みは、世界に前例がありません。
これはバッハに対して先入観の少ない日本においてこそ、やる価値のあることと考えます。


このDVDを見てバッハの踊り方を理解すれば、演奏もぐんと楽になり、バッハをより身近に感じられるはずです。
我々とバッハの距離も一段と縮まることでしょう。

厳選した楽器を用い、正統的、かつ、創意あふれる振り付けによるダンスと共に、渾身の演奏を皆様にお届けしたいと願っています。


バロックダンスとは? ~バロックダンサー・岩佐 樹里~

 

 

初めまして。バロックダンサーの岩佐樹里と申します。

バロックダンスは17世紀後半から18世紀中頃までフランスの宮廷を中心に躍られていた踊りで、現在のクラシックバレエの素とも言われています。バロック時代にはメヌエットやガヴォットをはじめとする多くの舞曲が盛んに作曲されていましたが、宮廷での舞踏会やオペラバレの中でのダンサーたちはこれらの舞曲に合わせて踊っていました。

 

後に器楽曲とダンスは別々の道を歩む事になり、踊られない舞曲が誕生したり、舞曲以外でも踊る事になるわけですが、バロックダンスが踊られていた当時はまだ舞曲とダンスは切り離せない程、密接に関係していました。当時はダンサーが作曲家、演奏家であったり、逆に演奏家や作曲家がダンサーであることも珍しくありません。ゆえに舞曲を作曲するとき、作曲家の頭の中にはどんなダンスが踊られるのか、何を踊って欲しいのかが鮮明に思い描かれていたことが現存している数々の振付と音楽の関係からも伺えます。

 

フランス革命を期に全く踊られることのなくなったバロックダンスですが、現在は当時書かれた踊りの教本や舞踏譜と言われる踊りの楽譜から何がどのように踊られていたのかという研究が行われ、それらを基に踊っています。ですが、長い間眠る間に分からなくなってしまった事も多くあるため、まだまだ議論や研究が続けられ、踊りの解釈も多様なものになっていると言えるダンスです。


バッハを踊りたい

バロック時代のフランスの作曲家やイギリスの作曲家の作品の多くは本当に今にも踊り出しそうな舞曲ですが、一方で同時代に作曲活動をしていた有名なバッハの舞曲はなかなか踊れるような作品が見当たりません。実際、多くのバロックダンスに関わる人たちは口を揃えて「バッハは踊れない」と言いますし、私もそのうちの1人でした。

 

過去に鍵盤楽器のためのパルティータなどいくつもの有名なバッハの作品に振り付けを行って自身で踊ってきた経験がありますが、踊りやすい舞曲というには程遠いものでもありました。振り付けをしていると、それらの音楽はダンサーに踊ってほしいと語りかけるよりは、むしろ音符に踊ってほしいと言っているような、バロック時代の舞曲の形に捉われない新しい舞曲の形をした作品が多くありました。

 

そんな理由から私もバッハは踊れない、という考えを持ってきましたが、武久源造さんから「イギリス組曲は踊れるんじゃないか」というお話を伺って驚きました。初めは半信半疑で聞いていたイギリス組曲で、たくさんのCDをききこみましたがその時点ではあまり考えは変わらなかったのですが、武久源造さんのバッハ作品の演奏法の慣習に捉われず、当時の舞曲の特徴や解釈など今一度思い起こしながら作品に向き合ってくださる演奏を聴き込むにつれて、作品のあちこちから生きるということの力強さと、踊りたい、という舞曲への熱い想いを感じ、最終的には「これは踊れる!」という確信を持つようになりました。

 

様々な固定観念を取り外した中で聞くイギリス組曲は無限大の可能性を秘めているようで、今一度バッハのイギリス組曲の舞曲にバロックダンサーとして向き合う時間はバッハが音楽に残した舞曲への想いを読み解く壮大な旅路のようです。

 

何故、バッハの舞曲では踊ることができないのか、どうしてバッハは踊れないと聞こえる舞曲を書いたのか、バッハは舞曲はかけなかったのか、そんなバッハの舞曲に対する疑問へのバッハからの応えがこのイギリス組曲の中に詰まっているように感じます。

 

イギリス組曲の舞曲が語りかけてくる踊りや躍動感を感じ、そこから見えてきたステップを組み合わせ振付け、踊る。それをすることで当時のバッハの舞曲への想いを感じることができると思います。

このプロジェクトを通して、「実はバッハの音楽って踊れるんだよ!」ということを多くの音楽に関係する方々に知っていただけたらと思います。